上海人はあまり脱がない

 最近、上海の街中を歩いていて妙な発見をした。
 街路沿い二間幅間口の個人商店は、表通り側のガラス扉を締めず結構開け放しなのである。

 陽気の良い頃なら何でもない事だが、この寒い真冬に間口を開け放してるわけで、当然のことながら室温と外気温はほとんど同じ状態となる。
 そんな状態であるので店主たちは、外出の防寒着そのままの状態で店番と言うか、商売をしていた。

 日本だと、八百屋など開け放しでないと成り立たないような商売のほかは、冬はドアを閉めて中は空調やストーブで暖を取るのが普通であるが、上海の個人商店はどうもそういった暖を取っている様子がない、つまりストーブが無いようなのである。

 以前は暮らしが貧しいからストーブを持てないだけなのかと感じていたが、上海ではどこへ行ってもストーブを見かけないことに最近気がついた。
 たまに扇風機の形をした電気ストーブを見かけることもあるが、非常に稀な存在であり、滅多に見かけない。

 また上海人の同僚はオフィスで暖房をつけるとあまり喜ばないことにも気がついた。

 こちらは部屋を暖めて、上着を脱いで身軽な格好で仕事をすればいいと思うのだが、どうも室温が外気温に比べ高いという環境にはあまり慣れないよう、よほどの寒さでない限り暖房をつけることを好んでいない様なのである。

 どうやら上海では部屋全体を温めて暖を取ると言った習慣があまり浸透していないようなのである。
 最近でこそエアコン導入家庭が増加したことにより屋内空調を行なって部屋を暖める習慣も少しずつ浸透しつつあるようだが、伝統的には上海は屋内は暖房無しが基本といっても良いような文化なのである。

 ゆえに日本のようなストーブはほとんどなく、灯油販売所すら見かけない。
 というか灯油そのものが中国では売っていないようだ。

 ライター用の「火油」「煤油」といったものはあるようだが暖房用ではないし、色々調べていくと日本の灯油文化の方が結構日本独自といっても良いもののようで、アメリカなどにはヒーティングオイルが存在するが、日本と同じではなく、日本独特の規格のようなのである。

 中国では東北部など寒い地方へ行くと薪のストーブやディーゼル油を使った地域暖房設備などは有るようだが、やはり灯油ストーブのようなものは見当たらない。
 やはり灯油ストーブはほとんど日本独特の文化の様なのである。

 まあ燃料が何にせよ、上海では薪も含めてストーブそのものがほとんど浸透しておらず、ストーブ的な暖を取る存在がないようなのである。
 
 はてはて、これはどういう理由でこうなっているのだろうか?

 気になっていろいろ資料を調べてたが、全く情報が見つからない。
 元々無い文化なので、どうやら資料もないようなのである。

 まあ仕方なく自分なりに考えた結論で言えば、上海は地理的条件により山林が遠く、薪が豊富に供給されない場所であり、それ故に暖房も発達しなかったのではないかと考えた。
 家屋にしても上海の伝統家屋はレンガ造りの石庫門作りであり、レンガは粘土、つまり木に依存しない建築材料であることから、上海という場所が木材資源に恵まれない場所であることは分かり、薪もまた少なかったであろうと推測されるのである。

石庫門の住宅

上海の石庫門の住宅

 それ故に、薪や炭を燃やして部屋の中の暖を取るという文化が発達しなかったのではないかと思われる。

 こういった点、日本では古くから囲炉裏や火鉢と言った文化があり、かなり以前から火を以て屋内を暖める文化があった。

 囲炉裏や火鉢は現代の空調やストーブには及ばないもの、屋外に比べ遥かに暖かい屋内となっていたようで、暖房文化としては日本はかなり早くから進んでいるものを持っていたようだ。
 携帯用懐炉などもその一つで、ベンジンを使った白金懐炉や使い捨てカイロなどは、中国どころか世界中にも類を見ないような存在であると言って良い物のようなのである。

 最近では煙のほとんど出ない薪ストーブなども発売されるなど、日本の暖房文化は実は隠れた世界遺産なのじゃないかという気もしている。
 ストーブや灯油の販売など、毎年冬になると見られる当たり前の日本の風景だが、実は結構稀に見る凄い伝統文化の積み重ねだと言うことに、調べていて初めて気がついた。

 さてさて話を上海に戻すが、上述の通りストーブ文化の無い上海だが、上海もやはり冬は日本の東京や大阪と同じくらい気温が下がるので、どうにかして乗り切らなければならない。
 このストーブの無い上海人たちがどうやって冬を乗り切るかと言うと、一つは衣類の厚着で対応しているようである。

上海の冬の服装

上海の冬の服装

 全身タイツのような長袖長ズボンの防寒下着を身に着け、その上から日常の洋服、セーターなどを身に着け、さらに防寒ジャケットのような上着を室内でも着っぱなしでいることも少なくない様である。

 つまり上海では冬の屋内での過ごし方は屋外とほぼ同じ格好で過ごしており、つまり屋内に戻っても服をあまり脱がないのである。

 冬の時期に上海のデパートなどへ行くと、日本以上にダウンジャケットなどが多く並べられ売られているが、あれは普段着としての需要が日本より多いからだと考えられる。
 ただシャワーなど身体を洗う際にはもちろん裸になり、裸になればさすがに身体が冷えるので、シャワールームの天井に専用の取暖器と呼ばれる暖房装置がついており、シャワー空間だけは暖かくなるようになっている。
 しかし、そういった特別の瞬間以外の時は、部屋全体が寒いので彼らは厚着のまま1日を過ごしている。
 
 また服以外の暖を取る方法として、食事やお茶で身体を中から暖めるという方法も大事な要素となっているようだ。
 上海など中国では日常的に一人一人がペットボトルサイズの水筒を持ち歩いており、中には保温性の高いものもあり、冬になるとこれにお茶を淹れて持ち歩いて、これで暖を取ってる人も数多く見かける。
 また、香辛料の強い辛い料理や火鍋と呼ばれる鍋料理が発達していることは、食べ物が暖を取る大事なチャンネルの一つであることと無縁ではないようで、日常食としてスープで暖を取れる麺類が伝統的に食べられていることも同様の理由と考えられる。
 しかしながら食べ物で暖は取るが、部屋を暖かくするという行動にはならないようで、食堂でもダウンジャケットを着たまま食事を取る人の姿を多く見かける。

 中国の食文化を表す言葉に熱いものを熱いうちにというものがあるが、あれは衛生面だけでなくこういった暖を取る大事な手段として食が大事だということのようである。

 ところで上海に来ている日本人でよく聞かれるのが上海は家の中が寒いという声であるが、こうやって調べていくと、それは至極当たり前の感想で、上海人は家の中を暖めようとする意識が無いのだということがわかる。
 つまりこのように上海の人間が伝統的にストーブを持たず、別の方法で暖を取る方法で冬を過ごしている文化では、家屋の暖を保つ文化技術が発達しておらず、冬は部屋の中でも寒いので厚着のまま過ごすべきなのようである。

 そうはいっても部屋を暖める文化の日本からやってきた我々日本人は、部屋の中では服を脱いで身軽に過ごしたいわけで、エアコンの暖房いれてもなかなか暖まらない上海の寒い部屋を恨めしい思いで過ごしている日本人も大勢いる。

 日本と同じように人が生活しているかのように見える上海の街だが、じっくりと観察すると、驚くべき事実が見えてくるから不思議である。

下記は巷で噂の煙の出ない薪ストーブの「モキ製作所」の商品です。



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