最近YOUTUBEを覗いていると、時々懐かしい映像に出くわす。
その一つが、チェリビダッケが1990年に手兵のミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団を率いて、東京赤坂のサントリーホールで行った演奏会の映像で、非常に懐かしさを覚えた。
忘れもしない1990年10月18日の夜で曲目はブルックナー作曲の交響曲の第7番である。
何故懐かしいかというと、実は当日会場に足を運んでおり、この演奏を会場にて生で聴いていたからである。
ただ、今でこそブルックナー好きを自認していて、この組み合わせと曲目であれば垂涎の内容であり、金がなくても借金しても行くかもしれないほど惹かれるのだが、実は当時はブルックナーの音楽というものを私は丸で知らなかった。
もちろん知識としてブルックナーという作曲家がいることは知っていたが、作品を聴くことはほぼ初体験だった。
そんなブルックナー初心者の私が、ファンからすれば超プラチナのチェリビダッケの演奏会に何故行ったかといえば、母親の知り合い経由で幸運にもチケットが回ってきたからである。
協賛企業向けのチケットのようで、当然S席であり、前から15列目くらい超良い席だった!
いまなら考えるだけでも気絶しそうなほど、すごい体験だったのである。
しかし、上述のように当時の私は残念なほどのブルックナー初心者であった。
というか生のオーケストラ演奏会でさえ、通算片手で足りる程度のビギナー聴衆であり、海外オーケストラも当然初体験だった。
故に、これだけのプラチナ演奏会でありながら、当時の自分にはその価値を味わい切ることができなかったのである。
居眠りこそしなかったが、ブルックナーの長くゆるやかな曲は非常に長く感じられ、自分の中でどう受け止めて良いかわからなかったのである。
もちろん、音色は非常に美しく、音も非常に分厚く柔かったことは非常に印象に残っているが、いかんせんブルックナーやチェリビダッケ音楽性を理解するには当時の自分は未熟すぎたのである。
今思えば非常に勿体無い体験だったのである。
しかし、この時の縁というか体験が、その後の音楽鑑賞行動に大きな影響を与えてくれることになる。
チェリビダッケの音楽の凄さの価値を認識してのめり込むようになったのは、NHKの特番か何かがきっかけだと思うが、禅を通じて音楽を語るチェリビダッケ氏の言葉に強く惹かれていくことになる。
そしてブルックナーとチェリビダッケの偉大さを知った後、改めて当時の映像を確かめてみると、鳥肌が立つほど素晴らしい出来栄えだったということが分かった。
改めて当時の自分がこの演奏を理解しきれなかったことを悔やむと同時に、結局はあの日があったからこそその後に感化された今の自分があったのかなと思うと、人生の出会いの不思議を感じるこの映像なのである。