日本の紙幣に武将は登場しない

 私が中国にきたのは2006年であり、その1年前から中国にちょくちょく来ているため、実は2004年から発行が始まった現在の日本の紙幣はそれほど使う期間がないままこちらに来てしまっている。

 そのため、私にとって1000円札と言えば夏目漱石の印象が強く、5000円札は新渡戸稲造なのである。
 故に時々日本に一時帰国した際に野口英世や樋口一葉の描かれた日本円を目にすると、ちょっと慣れず未だに違和感を覚えてしまう。

 ところで、こういったお札に描かれる肖像は、ここ2回ほどは福沢諭吉を含めて明治の文化人である。

 その前のラインナップで言えば1000円札が伊藤博文、5000円と1万円が聖徳太子でありいずれも政治家のような存在である。
 さらに過去を調べてみると平安時代の藤原鎌足などが登場した時代もあったが、そのほかは板垣退助や高橋是清なども紙幣の肖像に取り入れられているが、やはり政治家である。

 また中国のお札に描かれている肖像は額面を問わず毛沢東であり、世界各国を見渡しても歴代の大統領や政治家、王などが登場しているのでこの流れは不思議なことではない。

 ところが、こうやって日本の紙幣の肖像の歴史を見るとあることに気がつく。

 それは歴史上で武家社会の時代にいた人物が一人も採用されていないのである。

 日本人にとって歴史上の有名人物という括りで言えば、平清盛、源頼朝・義経、足利尊氏・義光、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などという人物が知名度として圧倒的であるが、これらの人物が紙幣に取り入れられることはないし、この武将本人どころかその時代の人物でさえ誰も採用されたことはないのである。

 この理由は定かではないが、幕藩体制の政府は実質権力者ではありながら形式上では天皇から権限を与えられた存在と捉えられる面もあり、戊辰戦争では最終的には皇敵として扱われる存在だったことから、明治の流れを汲む現日本政府からは、お札として相応しくない人物・時代と見られている可能性がある気がする。

 文化人と言う括りで言えば本来は江戸時代に測量で活躍した伊能忠敬などのほうが、野口英世なんかよりよほど日本に貢献した人物とも言えるのだが、幕府の役人であったことが影響しているのか、お札に採用されたことはない。

 それに比べ野口英世などは偉人伝で描かれている人物像では見えない面があることを「2013年08月18日 あの医学博士の凄い実態」で書いたが、ちょっとお札の肖像に相応しい人物とはあまり思えないのにお札の肖像となっているのである。

 いずれにしても、世界どこの国でもそうであるように、お札の肖像と言うのはその時々の政府の意向が強く反映された人物が描かれるわけであり、武家時代の武将のようにそれにそぐわない人物と言うのは絶対描かれないというのが実態の様である。





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“日本の紙幣に武将は登場しない” への2件の返信

  1. 武家社会の時代にいた人物が一人も採用されていないと書かれていますが、厳密には一人だけ採用されています。
    その人物は、江戸時代後期の思想家で二宮金次郎として有名だった二宮尊徳です。
    終戦直後に発行されたA一円券に載っています。

    • ご指摘ありがとうございます。
      二宮金次郎に関してはすっかり時代を勘違いしておりました。
      確かに生きていた時代としては江戸時代で武家時代でした。
      ただし、言い訳になってしまいますが、二宮金次郎は確かに江戸時代に活躍した人ですが、彼は武士ではなく農政復興で名を馳せた農民で、実際に名が広まったのも明治政府下の明治時代でした。
       富国強兵を目指す明治政府にとって彼の勤勉なスタイルは、非常に象徴的なため宣伝に使われたのでしょうね。
       まあお札に関しても、武家社会の人物の肖像画が一切使われていない中で、戦後のGHQ占領下で、唯一日本政府が主導権を持っていなかった時代に唯一武家時代の人物の肖像画がお札に使われたというのは、偶然なのかもしれませんが、日本政府にとっては皮肉な存在だったように映ります

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