日本政府が伝える間違った浴衣の常識

上海の浴衣フェスタ

 今月上海の領事館などが主催で上海市内で浴衣フェスタなるものが行われているが、ここで喧伝される内容が、どうも間違っていることが気になっている。

 日本の浴衣はその文字が示す通り、元々入浴の際に着た服装が原型となっている。

 それがその後の時代になってお祭りの縁日や花火大会など、入浴後に気軽に近所へ出かけるための略式着として発展し、近年では花火見学デートなどをターゲットとして大変おしゃれな柄の浴衣も増えてきたが、浴衣はあくまで浴衣であり室内着の延長の扱いの存在である。

 分かりやすく浴衣の和装の中の格を洋服で例えて言うならば、Tシャツと短パン或いはジャージのようなものであり、つまり日中の外出から戻った際に着る室内着の位置づけなのである。

 故にちょっと家の外に出て近所のコンビニに買い物に行く程度、或は近所の夜間のお祭りや花火大会に行く程度なら良いが、電車に乗ったりするなど街中の公共空間で着るには、どんなにおしゃれなデザインであってもやはりそぐわない服装となる。

 近年服装への発想が自由になりつつあるとはいえ、日本の服装は人間関係や場などTPOを考慮してきた日本の伝統的価値観に基づいて構成されており、その文化の極め付けといえる和装文化の中にあって浴衣の位置付けは今でも略式着の域を出ないのが常識であろう。

 しかしながら上海で行われている浴衣に関するイベントは、浴衣を夏の日常着や外出着などと間違った説明をし、あたかも日本の和装文化の象徴のごとく喧伝しており、どうも違和感を覚えてしまうのである。

 またイベントの内容を見ると、某百貨店の中で実施されることになっているようだが、まず百貨店という空間において浴衣姿が不釣り合いであるのと、夜間着用が基本の浴衣について真昼間から着用体験が実施されるというのはちょっとおかしいと言える。

 さらに企画の中で浴衣姿で寿司屋を訪れた方にはプレゼントがあるといった案内があるが、店頭で寿司折を買って持ち帰るだけならまだ許される範囲かもしれないが、浴衣姿のままで寿司店への入店ははばかられる行動というのがやはり日本の常識だろう。

 本来どうしても寿司屋に和装で行きたいなら夏ならせめて単を着るべきなのが礼儀であり、そこの区別が大事なははずである。

 どうも浴衣とその他の和装の区別が全くついていない人、或は浴衣を売りたいだけの人が企画し、浴衣、浴衣と騒いで嘘を吹き込んでいるだけの印象を受ける。

 和装文化はこういった区別の意味があって、初めて意味のある文化として存在しているはずなのに、その意味を伝えずして中国人へ浴衣の上辺の艶やかさだけを伝えるのでは、結局形だけの中身のない文化輸出であり間違った常識だけが伝わってしまうことになる。

 まあ、これが単なる個人商店が実施した小さなイベントであれば目くじらを立てて文句を言うこともないのだが、日本政府の出先機関である領事館が実施し、日本政府の予算を使って日本文化を発信する目的で実施されているイベントなると、疑問を呈さずにはいられない。

 恐らく領事館自身もどこからか持ち込まれた企画をそのまま吟味せずイメージだけで実施しているのだと思うが、日本文化の発信を謳うなら自国の文化が間違ったまま伝わらぬように、正しい知識で実施し、やむを得ない部分は説明で補足して誤解を招かないようにするなど、もう少し慎重な企画が求められるという気がするのである。



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