オーケストラを分解する

 最近、といってもここ数年であるが私自身の音楽の聴き方が変わってきたように感じる。

 音楽を聴きはじめたころは聞いたことのない新しい曲の経験を広げることに精力を注いでいたような気がするが、最近は主要な有名曲は聴きつくしてしまっており、演奏会めぐりなどという金のかかる趣味人生も上海に来てから行きづらくなってしまったので手元にあるライブラリーを繰り返して聴く回数が増えた。

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 まあいくら聞いても音楽に飽きることがないというのが私の性分だが、ただ最近聴き方に変化が起きた。

 どう変わったかというと、同じ音楽に深さを見出すような聴き方に変化してきたのである。

 それは何かというとオーケストラの分解である。

 つまりオーケストラの音楽を総合的に聞き流すのではなく、楽器一つ一つにスポットを当てて音楽を聴くようになったと言えばいいだろうか。

 オーケストラには言うまでもなく数十の楽器があり、それぞれがある時はユニゾンでひとつの旋律を、或いは全くバラバラのメロディラインを奏で結果として一つの響きを作り出す。

 この楽器一つ一つの音を聞き分けながら音楽を聴くのが私の言うオーケストラの分解で、全体の響きの中に各楽器個々の音の響きを見つけるのである。

 そうやってきくと聴き慣れた曲に実に新鮮な発見がある。

「おお、この(聴き慣れた)旋律の中であの楽器はこういう音を出していたのかぁ」

など、オーケストラの響きの中に埋没しそうな一つの楽器の響きを発見する作業はとても新鮮である。

 特に木管楽器や金管楽器など、ソロ以外の部分でどう鳴っているかを見つけるのは非常に面白く、聴き慣れた音楽の流れに新しい発見をすることができる。

 もちろん、オーケストラとして鳴っている中で一つの楽器の響きを聞き分けるのは非常に集中力を要求される作業であり、特にファゴットやホルンなど、全体の響きを支えているような楽器の音をソロ以外の場所で拾い上げるのは非常に大変で、生演奏で聞いてもなかなか拾い上げるのは大変なのに、ましてや質の悪いCD録音や安っぽい再生装置ではどんなに頑張ってもなかなか聞き分けられない。

 でもこれらの楽器の音を響きの中に見つけた時は非常に嬉しいのである。

 この嬉しさはなんというか、一つの会社を支える平社員や事務方の頑張りを見つけたような、イベントで言えばスポットライトの当たってない裏方の高度な職人芸を発見したような、そん嬉しさなのである。

 そしてこうやって一つ一つの音が拾い上げられるようになると、オーケストラの中でどの楽器とどの楽器が絡んで一つの響きやメロディを作り上げているのかが分かってくるから余計に音楽を聴くのが楽しくなり、さらに作曲家の癖なり個性に近づくことが出来る気がする。 

 もちろん演奏している彼らや指揮者などはこの分解作業を毎回当たり前のようにやって音楽を作り上げているのだから実に敬服に値することを改めて感じる。

 こんな聴き方をしているものだから、実は先月日本に帰国した時にサントリーホールに行った時も、プログラムが著名なソリストが登場したコンチェルト(協奏曲)であったにも関わらず、ソリストそっちのけでオケ側の木管やホルンの動きや響きばかり気にしていた記憶がある。

 私にしてみればソリストの演奏が上手なのは当たり前で、それをどうオーケストラの一つ一つの音が支えているかに興味があったのである。

 このオーケストラの分解作業は実に止められない、まるで機械屋の機械いじりのような状態の現在の私である。



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