クラシック音楽をラジオで聴いていると、音響エンジニアの余計なお世話が鼻につくならぬ耳につくことがある。
オーケストラの演奏を生で聴いたことがある人はわかると思うが、コンサートホールでで奏でられる音楽は、最も小さい音量の音と一番大音量の音の幅が非常に大きい。
これを専門用語でダイナミックレンジというのだが、テレビやラジオの音の収容領域には限界があり、このダイナミックレンジが非常に狭くなっている。
つまりテレビやラジオの信号に乗せる場合、信号の許容範囲内に収まるように音を調節しているのであって、音が小さい部分では音量を上げ、音が大きい部分では音量を抑えて放送の信号に乗せている。
誤解を恐れずに言えば放送の電波に乗せられる段階で音楽は電波の身の丈に収まるように歪められていることになる。
曲中出力をずっと固定にできるような曲であればいいが大音量から消え入るような音まで激しく変化するオーケストラ曲などでは、ずっと同じというわけにはいかない。
大音量のにあわせれば小音量が聞こえず、小音量にあわせれば大音量の部分で音が歪み、下手をするとスピーカーなどの機械が壊れる。
故に曲中に音量を操作する行為なんぞは、ナチュラルな音を聴きたいリスナーからすれば余計なお世話なのだが、仕方なく許容せざるを得ないのである。
これが放送ではなくCD録音からの直接再生であればこのあたりの性能が格段に違うので、普通の人が高い性能の再生機器を使ってよい環境できけば、このダイナミックレンジの問題で悩まされることはほとんどない。
しかしこのCDとて、結局はマイクから集音された音を記録しているに過ぎず、その録音段階で音のバランスを取っているレコーディングエンジニア(以下RE)という人の手が入っている。
つまり楽器間の音量バランスをとってどのようにCDに記録するかはこのREが握っており、コンサートホールで生で聴く音楽のバランスとは若干違ってしまう。
もちろんREとてコンサートホールのナチュラルな感覚を大切にしているはずであるが、ある個人の耳と手によってバランスが取られていることには変わりない。電子機器再生でのリスニングに慣れた人がコンサートホールに赴けば、オーケストラの各楽器がもっと違うバランスで響き、その音が溶け合っていることに気づくはずだ。
しかもそもそもCDやレコードの録音というのは、クラシック音楽に限らず一つの曲を何度も録音をしたうち、各部分の一番良かったものを使ったツギハギ録音である場合が多い。
たまにライブ録音として、曲を流しで収録してそのままCDにしている場合もあるが、全体から見ると小数である。
故にオーケストラ曲のCDでもじっくり聴いていると時々ツギハギの継ぎ目がわかってしまう場合がある。
まあこれも完璧な曲の録音を目指すためには必要な作業なのかもしれないが、生のコンサートのライブな流れに慣れてしまった私にとっては、このツギハギによって音楽の流れにどこか不自然さを思わせられる場合もあり、REさんの善意の作業とはいえ余計なお世話に感じてしまうのである。
やはり音楽は生で聴くに限る。
ああ、上海からサントリーホールにすぐ行ければいいのになぁ。。。