以前から書いているように、私はブルックナーの交響曲が好きで、そのきっかけとなったのが、故セルジゥ・チェリビダッケ氏率いるミュンヘンフィルの生演奏に接したことである。
(「チェリビダッケのブルックナー7番のライブ映像」)
それ以降、チェリビダッケ氏の演奏には度あるごとに感銘を受け、傾倒していったのだが、氏の指揮する演奏には時々驚くほどその曲の概念を変えさせられてしまうものがある。
その一つがこのベートーベンの「田園」
言わずと知れたベートーベンの傑作のひとつであるが、その有名さ故か、ベートーベンのほかの交響曲に比べちょっと苦手な面があった。
特に第三楽章から第五楽章にかけては連続で演奏され長めになるので、演奏によっては飽きてしまい、最後まで集中力をもって聴けないのである。
ところが、チェリビダッケ氏の演奏は、聞いた途端にこの曲に対する印象を一変させてくれた。
特にその長くて退屈だと思っていた第三楽章から第五楽章、特に第五楽章の印象が全く変わったものになり、非常に心地よい音楽に感じられたのである。
私は専門家ではないのでそこまで詳しい分析はできないが、チェリビダッケ氏の指揮する演奏は、ほかの指揮者が演奏する曲と比べ、違うメロディが聞こえてくる印象なのである。
特に高音部に隠れがちな弦バスなどの音の動きがしっかりしていて、心を揺さぶってくるような印象である。
しかもそれぞれのパートの音がきちんと丁寧に歌われており、どの音も埋もれることなく音と音が繋がって流れていく印象なのである。
またオーボエやチェロなど人の声に近い音域もきちんと細かい強弱をつけながら歌うため、心に寄り添われて音が動いていく印象で、これがいつも聴いている同じ曲なのかと言うほどの驚きを受ける。
そして眩しいくらいの夕日が沈むような弦の音の輝きを感じるフィナーレは圧巻であり、とても優しい気持ちに包まれながら終曲を迎える。
以前は長いと思った楽章が終わってしまうのがとても名残惜しく感じる程に美しい。
数あるクラシックの録音の演奏で、なかなかここまで感銘を受ける演奏は多くなく、自分の心の中でとても大切にしたい演奏である。