ここ一週間は、日本の株が乱高下しその筋の投資家は大騒ぎのようだが、個人的には長期的に景気が下がるならまだしも一時的な上下は直接関係ないので、幸せというか不幸というか難しいところである。ところでこの数週間の動きはともかく日本の景気は一時期の低迷から回復していると言われ、恩恵を受けている人と受けていない人の格差の解消がこれからの課題であろうといわれているが、果たして本当にそうなのであろうか?
実は格差があるから好景気というものが存在するのではないだろうか?リストラや派遣労働などによる賃金の抑制、つまり格差の拡大を図った結果として景気の回復という表面上の景気状態が発生している気がしてならない。ここ数年、外国人研修制度に名を借りて外国人を低賃金で働かせているという状況も例外ではない。
日本のあの政党の常套句を借りると企業、或いは株主による搾取が発生しているのではないか?格差の下にいる人間から搾り取られたお金を格差の上に立つ人間がまとめて動かす。それが好景気の数字として現れ、バブルになる気がする。
しかしその搾取はいつまでも搾りきれるわけがないので、いつか弾け不景気の波がやってくる。最近の株価の乱高下もアメリカの低所得者向け住宅ローンの焦げ付きの発覚が発端とされているが、これこそ格差の下にいる低所得者からの搾り取りが行き詰った結果に他ならない。勘違いしないで欲しいのはローンが搾り取りではなく、低所得者に住宅購入のチャンスを与えるという名目の住宅業界の搾り取りの目論見のほうである。
今回の日本の好景気をリストラ・非正規雇用・外国人研修生が支えるバブルとすれば、前回のバブルはどんな格差が支えていたのかというと、私は自分も含む第二次ベビーブーム世代のアルバイト雇用の人々であると考える。大学生・高校生のアルバイトという低賃金労働者が外食産業やコンビニエンスストアなどのサービス産業の拡大を支えた。しかも彼らの収入のほとんどは生活の基盤ではない可処分所得であるため、全てが消費にまわせる。そのお陰でどんどんお金が世の中にまわりバブルを加速させていった。しかし一番ピークの世代が高校を卒業し正規雇用側に移動する頃を境に、アルバイト人口が減少したため格差が縮み景気拡大とまりが一気にバブルがはじけた。
さらに遡ると戦後最大の好景気といわれた「いざなぎ景気」の時代も戦後のベビーブーム世代が高校を卒業する時期と重なり、かの世代の低賃金OLが支えたものと思われ、その前の断続的な好景気も田舎から出てきた金の卵といわれる中卒の世代が低賃金で景気の底を支えたと考えられる。年功序列や学歴別の賃金制度は実は社会平等に名を借りた社会経済全体の景気安定対策でもあったとも考えられる。
しかし今回の好景気の流れをもって、日本の好景気拡大のカードはもうほとんど切りつくした気がする。今までは地方出身者・ベビーブーム世代・女性・外国人などこれらのグループを順番に低賃金労働者として社会に登場させ景気を支えさせてきたが、既にこのような格差を問題にする法律や社会環境の整備によって彼らを低賃金労働者のターゲットとして使えなくなりつつある。いま私が唯一狙われているであろうと考えるターゲットは老人である。事実、ベビーブーム世代が還暦越えをし、年金不安もあって低賃金雇用による定年延長制度が導入され、彼らを低賃金で利用していこうという動きが加速している。
しかし老人が支えられる社会労働力は限られており、どれだけ景気に貢献できるか不安である。これから人口減少を迎える日本の経済に未来があるのか?考えるだけで非常に恐ろしいことである。
さて話を現代の中国に目を移すと、この好景気を支えているのはやはり格差そのものであるに他ならないと考える、ただし恐ろしいことにこの国には13億人もの人口が住み着いており想像以上に底が深く広い。日本のように一億そこそこの人口で起きた好景気と違ってかなり息の長い好景気が期待できるのではないか、私はそう思う。ただしこの人的資源でさえ無尽蔵ではない。いずれ底をつき景気上昇の流れが止まる。その時息が長く成長した経済が不景気を迎えた時どのような状況に陥るのか。長く共産主義経済にあって本格的な不景気状況を体験していないこの国の社会がどのような反応を起こすのか?私は可能な限りのソフトランディングを願わずにはいられない。