日本で担担麺(担々麺・タンタン麺)というと、中華料理の一つの代表格と捉える人が多いが、実はその認識は半分正しく、半分間違っている。
確かに担担麺の故郷は中国四川省であり中国発祥の料理である。
ところがである。
実は本場四川では担担麺はあまり知られていない料理であり、担担麺がメニューに載っている店は数えるほどしかないようで、日本でイメージするほどポピュラーな麺ではない状況となっている。
しかも現地の食堂で出される担担麺は小ぶりのどんぶりに、コシのないうどんのような太麺が盛られ、ラー油、炙りゴマ、炒め挽肉など合わせてあるだけもので、いわば日本のぶっかけうどんような状態で提供されており、日本のような辛いスープに浸された熱々の麺とは似ても似つかないもののようなのである
このように現地の担担麺はかなり素っ気ない食事であり、日本で言うところの立ち食いのざるそばレベルでしかなく、味わいを楽しむの食事ではないものとなっている。
元々の担担麺の名前の由来も、1841年ごろ四川省自貢市の麺の売り子が日本の夜鳴きそばのように天秤を担いで売り歩いたことから名付けられ、つまり簡易な麺食が元祖だったことがわかる。
当時スープを多量に持ち歩くのは難しいことから、「スープ無し」のスタイルとなりこれが現地の担担麺の原型となっている。
では今日本で認識されているスープ入りの担担麺とは何者か?
実はこのスープ有りの担担麺の由来には二説ある。
一つは香港を経て日本で生まれたという説で、もう一つは日本で直接生まれたというもの。
いずれの説でも現在の日本の「スープあり担担麺」の発案したのは、日本に四川料理を伝承した第一人者、陳建民氏ということになっている。
陳氏は当初は日本でも本場の四川式「スープなし担担麺」を作っていたようだが、当時の日本人にとっては本場のラー油の辛さは強烈過ぎたようで、受けが悪かった。
そこで陳氏はラーメン風にスープ麺として担担麺を改良し売り出すことにしたのだが、これが現在の日本式担担麺の元祖となったとのこと。
このスープ担担麺は瞬く間に人気となって広がり、日本で担担麺と言えばスープ有り麺を指すイメージが定着し、日本における中華四川料理の代表格的存在に扱われるまでになったのである。
これがスープ担担麺の日本発祥説とされているものである。
ところが、世界の料理事情をよくよく調べてみると担担麺の名店と言われているお店が実は香港にもあり、これがやはりスープ有りの担担麺を提供している。
詠藜園という四川料理お店がそれで、日本のガイドブックにも載っている有名なお店でもあり、私もかつて一度食べに行ったが、非常に辛い味の中に見つけた深い旨みに感動した記憶が残っている。
このお店が開店したのが1940年代とされているのだが、実は陳建民氏が日本にお店を開いたのが1950年代であり、詳細は把握できなかったが陳氏は日本に来る前に香港のレストランで修行をしたことがあるようで、ここから陳氏が日本式担担麺を後に生み出すに当たり、この香港の詠藜園の担担麺を参考にした可能性は捨てきれない状況となっているのである。
但し、香港の担担麺は花生醤というピーナツ調味料をふんだんに使用した味わいに対し、日本の担担麺は芝麻醤というゴマを使った調味料を入れた担担麺が主流なので、風味がかなり異なる。
また香港の詠藜園がいつからスープ担担麺を提供したのかという正確な記録も無く、陳氏が香港にいた頃に現在の香港担担麺はまだ生まれていなかった可能性もある。
そうなるとやはり陳氏の担担麺がスープ担担麺のオリジナルであるということになり、ひょっとするとそれが逆に香港へ持ち込まれ、香港担担麺を生んだ可能性もある。
或いはスープ担担麺は四川を遠く離れた日本と香港でそれぞれ別に生まれて発展してきたということなのかもしれない。
いずれにしても、本場ではほとんど見られない形態のスープ担担麺が各地で担担麺として食べられていることになり、それを中華料理「担担麺」だと思い込み我々は食べていることになるようである。
さて、さてそんな担担麺の歴史を知った上で、上海で担担麺と呼ばれる料理がどのように提供されているのかを調べてみた。
まず、向かったのか四川料理の「蜀巷」というお店。
(店名は三国志の魏呉蜀の蜀の街角という意味になろうか)
チェーン店らしく、市内にいくつか店舗があるようだが比較的リーズナブルかつ本格的な四川料理のお店で、今回は地下鉄2・12・13号線南京西路駅近くの818広場というビルの支店で挑戦し、出てきたのが写真の担担麺である。(大椀18元)
この担担麺さすが本格四川料理らしく、現地スタイル通りスープがないが、その代わり花生が山盛りに乗せられ、豊かな香りを放っている。
で、早速食べ始めた。
見た目上でスープはないがお椀の底にタレが沈んでいるはずだから良くかき混ぜて食べるのが正しい食べ方である。
で、食べ始めの頃はタレが麺にあまり絡んでいないのですいすい食べられたのだが、次第にタレの味が濃くなり、辛みはそれほどでもないが、麻痺の麻の要素が強く、山椒が効いて口の中が痺れてくる。
味としてうまいと言えばそれなりにうまいと言えなくはないが、この痺れ具合は日本人にはちょっと厳しいレベルである。
私もどんどん食べ進むうちにかなりつらい状態まで痺れるほどになった。
なんとか完食はしたが、残念ながら暫くは挑戦を止めておこうと思うほど辛い挑戦となってしまったこの本格担担麺である。
そして懲りずに次の日に挑戦したのが、香港系の担担麺。
こちらもやはり南京西路の、今度は伊勢丹の地下のフードコートの一角にあるお店で、翡翠拉麺小龍包と名がついているお店である。
ネットの情報によると、この翡翠拉麺小龍包の経営は一部フランス系の資本が入っている広東料理系のレストラン経営の会社で、広東省周辺では大きなレストランも経営しており日本にも投資しているようだが、ここではフードコートの一角の店舗である。
注文したのは担担湯拉麺というメニュー名で、28元だった。
ここの担担麺は花生醤(ピーナッツ味噌)のスープであり、実にまろやかな風味である。
辛味と酸味がほどよく絡み、そこへ花生醤が入り込んで香港系の味ではあるが実に日本人好みといえる。
正直言って、上海で食べた麺類の中でもっとおしいしかった部類に入り、嬉しさのあまりスープを飲み干しての完食となった。
ただまあ所詮フードコートで食べる環境なので周囲は落ち着きがなく、誰かを誘ってゆったり食事という雰囲気ではないが、この麵は味はピカイチであり、是非お勧めしたい一食である。
そして次は日本系の担担麺を、、、
と考えているのだが、残念ながら今のところ上海では見つけられておらず、見つけ次第報告したいと考えている。