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日本人価格の崩壊

 今日で中国に住み始めてちょうど満8年になった。

 8周年だからといって特別何もないのだが、毎年言っていることだが中国に踏み入れた日付と言うのはかなり忘れないものだなという気がする。

 さて、8年前を振り返ってみるとあのころは上海での物価水準は今より低くかったが、それに対して日本料理屋のメニューはそれほど美味しくないくせに日本人価格ということでローカルレストランとはかなり差があった。

 それでも、日本から来た駐在員たちは日本食にありつけるという事で、これらの日本料理屋に通ったり、日本人向けの高いナイトクラブを割安といって年中通っていたのである。

 また私が来たころは人民元の価値もまだ低く、1万円を両替すれば800元以上になったので、現地の人から見ればかなり馬鹿高い「日本人価格」であっても、日本から来た出張者や駐在員は安い安いといってかなりウハウハで上海ライフを楽しんでいた状況があった。
 そしてそういった日本人目当ての「日本人価格」を設定したお店もこの時期上海や蘇州には沢山あり、さらにこれらのお店の広告を主ターゲットにしたフリーペーパーもあの頃沢山あったのである。

 現在8年の時が流れてあの頃と比較してみると、まず何より上海・中国のサービス水準が上がったことが言える。
 この8年の間に日系や台湾系、欧米系のサービス産業が数多く進出してきて、レストランや商店のサービスレベルをどんどん押し上げてゆき、例えローカルなお店であっても以前ほどには日本料理店とサービス水準に差が無くなってきたのである。

 加えて上海では労働者の給与水準も上がり、富裕層からミドルレンジ労働者たちの日常の消費意欲が高まったお蔭で商品の品質に対する目も厳しくなり、その結果として街中で手に入るありとあらゆるものの品質が底上げされる状況になっている。

ファーストフードも増えた

 もちろん今でも「中国クオリティ」と呼ばれるような品質の悪いものやサービスもたくさん存在するが、以前ほど高いお金を出さなくてもそれなりに良いものを気軽に手に入れることも十分可能になってきたのである。
 このようにローカル商品の品質やサービスレベルが上がると、それまで外国人向けのお店にしか行かなかった外国人も、これらの中国ローカル系のお店に次第に足を向けるようになるわけで、質で差をつけて高価格を保っていた外国人向けお店の優位性が失われてくるようになってきた。

 さらにこの8年間の人民元の切り上げや円安の進行によって、外国人駐在員の可処分所得(=自由に使えるお金)も相対的に目減りし、外国人専用価格のような特別価格は割高感を感じるような状況になった。
 特に日本円の対人民元レートはこの8年で4分の3以下程度になっているわけで、以前は1万円が800元以上になったものが現在では570元くらいにしかならず、さらに物価が1.3倍程度になっていること考えると、以前に比べ駐在員が使える費用は同じ日本円金額なら以前の6割程度になっている。
 すると当然駐在員たちの財布のひもは固くなり「日本人価格」を受容できる比率は減って来るわけで、必然的に質に見合わない「日本人価格」を設定するお店は淘汰されていくことになり、結局日本人価格はデフレを起し崩壊する運命をたどることになる。

 またこの「日本人価格の崩壊」によって、その差別化によって成り立っていた日本人向けフリーペーパーも衰退してゆくことになり、既に姿を消した媒体や、廃刊までは至ってないものの以前ほどの勢いを持たない媒体が数多くある状況となっている。
 
 このように以前は存在した「日本人価格」が、もはや姿を消したといっていいのがこの8年間の変化であり、日本人価格の崩壊とともに中国人の生活レベルの向上を目の当たりにした時間だったなというのが、この8年間の中国生活の感想である。

上海ワルツ:
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