日本の食堂やレストラン、特に関東の料理店や居酒屋に必ずと知っていいほど常備されているのが醤油だと思うが、日本ほど醤油文化のない中国では、レストランのテーブルに醤油が置いてあるところは非常に少ない。
しかし、その代わりと言っては何だが、大半のローカルのレストランに置いてあるのが「酢」と「ラー油」である。
まあ上海以外の地域がどうなっているのかは、どの地域も旅行程度の経験しかないので詳しい状況はよく分からないが、少なくとも上海では酢とラー油が置いてあり、特に酢が必ずおいてあるイメージが強い。
恐らく店の料理ジャンルによって差はあると思うが、「湯包」「餃子」「ワンタン」など、小麦粉の皮を使ったメニューの置いてあるレストランや食堂にはほぼ100%といいっていいほどテーブルに酢が常備されている。
これらのメニューなら日本人にとっては何となく醤油が欲しくなる面があるが、塩気は料理自体に結構含まれているので、彼らにとっては「酢」があれば十分なようなのである。
ではなぜ酢なのか?
一般的に酢は体にも良いとされ、カルシウムの吸収を高めたりもすることから、健康の意味で酢を採るということはもちろんあると思われる。
酢を薄めた水を毎日欠かさず飲んでいる人も私の周りに何人か見かけたことがある。
しかし、それだけでなく酢には殺菌効果もあり、日本でいうところの葱の薬味、つまり毒消し的な役割があって食堂においてあるのではないか、そんな気がする。
さらに味覚の面でも、とかく油が多くて重くなりがちな中華料理の中にあって、酢がもたらす清涼感や酢に含まれるアミノ酸の旨みは、確実に料理の味に深みを与えてくれる面がある。
この私でさえトウモロコシや芋か作られる麺(粉糸)の淡白なスープに酢を足して味を補うことがあり、「酢の旨み」は酸っぱさだけでなく中華料理の旨みの大事な要素となっているようなのだ。
つまり、中国人たちはこれらの「旨み+毒消し+健康」といったこれらの複数のメリットのために、日常から酢を多用している、そんな気がするのである。
こういった酢の文化が浸透した中国の料理文化の中では、食品スーパーでも日本より遥かに多くの酢の商品が売られ、種類も豊富である。
中には餃子専門や冷菜専用などと謳った「専門酢」も結構売られており、実際の味も結構バリエーションに富んでおり、好みに合わせたバラエティな酢が選べる状況になっている。
もちろん日本でもポピュラーな米酢も売られているが、こちらの米酢は日本製品のようにマイルドに仕上がっておらず、結構「ツン」とくる酢独特の刺激臭の強い香りがする。
それ故に使う量を間違えると料理の味や香りが支配されてしまい、食べにくくなってしまうこともあり、私も何度か失敗した経験がある。
まあ、もともと餃子や酢は好きな私であるが、これだけ酢を多用する文化にはちょっとびっくりしており、日々色んな料理と酢を組み合わせて失敗と成功を楽しんでいる毎日となっている。