子供の時にはよく読書で数々の偉人伝だの伝記などを読み、先人たちの偉業などを学んできたが、それらは子供向けの本であったこともありその人物の良いところばかりが書かれた本を読んでいたような気がする。
しかしながら大人になって、それらの人に関する大人向けの資料を改めて読み返し、それらの人物の知らなかった一面を知らされると、かの人物が偉人伝に含まれていたことにいささか違和感を感じる時がある。
その一人がかの医学博士野口英世氏である。
まあ子供の時に読んだ一般的な伝記の中身としては、福島の会津の貧乏な農家の息子が、1歳の時に火傷でくっついた指を15歳の時に医師に手術してもらって治ったことに感激して医師を目指すことになり、その後上京し勉学に励んだ結果見事に医師となり、やがてアメリカに留学し黄熱病などの研究に功績を残したというのが概ね共通する内容であろうか?
まあ、この辺りの書かれている内容はウィキペディアなどを見る限りにおいては、事実は事実として概ね間違っていないようであるが、問題は子供向けの伝記には書けないような事実がかなり抜け落ちており、人物評価がかなり修正されたイメージになっているということである。
例えば、野口氏はかなりの浪費家で、田舎で40円もの大金を借りて上京したが、わずか2か月の放蕩で使い果たし、下宿を追い出されたようである。
この時代、野口英世が世話になり後に重要な援助者となる血脇守之助の、当時の講師としての月給が4円であったことから、いかに野口氏が凄い浪費ぶりであったかが伺える。
しかしこのピンチに野口英世氏は今度はもう一つの能力を発揮し、世渡り上手というか饒舌家ぶりを見せ、血脇氏をうまくそそのかして彼の給料を上げさせ、自分の学費などを捻出することに成功したとのこと。
さらにこの野口英世という名前も、元は野口清作という名前であったが、当時人気の小説に本人に似た名前の主人公が登場していて、本人同様の自堕落な生活を送っていることが描かれていたため、これを嫌って名前を変えることにしたようである。
しかもそのため田舎にいた別の清作という名前の人に無理やり別の野口家に入るよう頼み込んで、強引に同じ名前が同じ村にいるのは紛らわしいという理由を作り出し役場に改名を認めさせたというから、どうもやることが凄い。
そのほか婚約者の持参金を使って留学し相手から婚約破棄させるように仕向けるとか、大学に通ってないのに履歴書に3年学んだと記載して米国で学歴詐称を通すとか、清国への国際防疫班の支度金96円を放蕩で使い果たすとか、偉人伝に描かれる姿とはまるっきりイメージの違う姿がそこにあるようである。
ただ、こういった胡散臭い人間振りを発揮していた一方で、伝記に描かれるような研究熱心さと優秀さについては間違いがなく、実は子供向けの伝記にはあまり描かれないが、梅毒関連の研究が非常に評価され研究者として高名となったようである。
まあどんなに立派に聞こえる人間でも、社会的に評価される部分とだらしない部分を持ち合わせているのが普通だと考えれば、野口英世氏もその例に漏れていなかっただけとも言えるが、偉人伝とはあまりにもかけ離れた驚きの実際の人物像である。
今の世の中にも学歴詐称や都合の悪い経歴を消したりする人は大勢いるわけで、そうやって都合よく創り上げられた「立派な像」に誤魔化されないように気をつけたいものである。