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すごい寝技師

 連日のように日本からオリンピック報道が続いている。
 主だった競技の結果ぐらいは横目で見ているが、それほど夢中になって追いかけているわけではない。(というか情報を遮断するのが難しい状態である。)
 普段からほとんど気にしていない競技の、昨日まで全く知らなかった選手を、同じ国籍というだけで入れ込んで応援する気にはあまりならないのである。

 そういう意味で結果を気にしているのは、普段から応援している野球と卓球くらいのものである。
野球とて、むしろ通常のレギュラーシーズンチームのほうが気になるくらいであり、大谷翔平選手の打撃結果やNPBのエキシビジョンマッチなどの情報を日々追いかけている。

 そのオリンピックにおいて、柔道は金メダル連発だったようだが、そもそも開催国である上に、コロナ対策によるホーム優位がさらに強まっている状況を考えると、金メダル連発はある程度予想されたことであり、それほど驚きでもない。
 ただ、そういった中で一人だけ驚きの選手がいることを知った。

 女子78キロ級の濱田尚里選手である。

 柔道界では既に有名な存在であるようだったが、私は上述のように柔道界の状況を追いかけているわけではないので、金メダルを取るまでその存在を知らなかったがニュース記事を読んで俄然興味をひかれた。
 今回の五輪は全部寝技で一本を取って金メダルを取ったというのである。

 改めて、試合の映像を全部確認したところ、やはり全部寝技で決めていた。

 しかもオーソドックスな抑え込みのみならず、関節技や締め技などとありとあらゆる技術を駆使して勝負を決めていたのみである。
 極めつけは準決勝で、片腕だけを掴んでいた状態で小内刈りの足技で相手を倒した後、その腕の関節を取り、仕留めてしまった。
(準決勝の様子)

 鮮やかというほかない。

 柔道経験者の私からすると、あの寝技の素早さは神業に近く、惚れ惚れする。
 投げ技ならレベルは違えども、金メダル選手と同じような技を私も使えたが、あの寝技はとてもまねできない。
 気になって、濱田選手の過去の戦いっぷりをYoutubeでチェックしたが、いずれも鮮やかな寝技であり、寝技の女王と呼ばれているようである。
 

 最近のオリンピックは立ち技が全盛で、もちろん寝技で勝負が決まるときもあるがどちらかというと立ち技の後の展開オプションの一つで、寝技を専門にする選手はあまり出てこない。
 何故なら寝技が凄くても立ち技を凌げないと勝ち上がれないわけであり、オリンピックの舞台に上がれないからである。

 つまり、この濱田尚里選手は並みいる立ち技の選手の技を凌いで寝技で仕留めてきたということであり、立ち技のキレはそれ程ではないかもしれないが、立ち技を裁く技術も一流だということになる。
 柔道の世界では寝技はセンスが必要な立ち技と違い、練習量次第でどんどん強くなれるとされる。

 つまり、濱田尚里選手は相当な練習量をこなしてきたと推測され、30歳を超えての遅咲き金メダルと言われているが、それは練習量を積み重ねた結果の遅咲きなのであり、彼女の努力の結果なのであろうに思われる。

 日本語で「寝業師」といってしまうと裏工作をする人という意味になりあまり良い意味を持たないが、彼女の寝技師ぶりは世界に誇れるものであろうと思う。

 コロナ拡大の影響であまり前向きになれない五輪観戦だが、努力の積み重ねがはっきり見える濱田選手は世界一にの寝技師だなと感じさせてくれた存在であった。

上海ワルツ:
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