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大寒波に襲われた列車32時間の体験 その1

先日、香港へ業務で出た帰り道、広州へ立ち寄ったのだが、その帰りどうせ週末にかかるから時間の心配をせず、上海まで安く列車で帰ろうと、思い付きで行動したのが運のツキ、中国全土を襲った暴風雪の影響をモロに受け、とんでもない帰路となってしまった。
 広州を出発する時点で大雨だったので、雨の影響はあるかもしれないなとは思っていたが、まさか大雪の影響を受けるとは思ってもいなかった。
 夕方18時発の列車に乗り込んだ直後、車内販売の弁当を食べ、前日が寝不足だった為、すぐ横になり寝た。夜中に少しだけ目が覚めたとき、何故か列車は停止していた。途中で時間調整するような列車ではないので、これは何かやばいかなと予感を感じつつも、慌てたところでどうにもならないので、そのまま寝てしまった。
 朝、目覚めた時点でもまだ列車は止まっていた。七時を回っていたのに弁当の車内販売もまわって来ない。しかも車内が何故か冷えている。外を見ると、霜が降りているというか草木が凍り付いている不思議な世界が広がっていた。いわゆる雪の銀世界というのとはまたちょっと趣が違う。自然が突然魔法で凍りついてしまったような氷の世界である。

 日本にいたとき、いろんな北国の風景は見てきたが、そのどれとも違う不思議な風景だ。
これは中国の冬独特の風景なのだろうか?
列車はのろのろ徐行と停車を繰り返し動いているようで窓の外から見えた地名は衡阳だった。急いで時刻表で位置を確認すると広州から大して距離が進んでいない「え?まだここ・・・」本来ならあと4時間で上海に着いている時刻なのに、夜中に通過しているべき駅にも到達していない。
(衡阳はここ)

 さらに危機は別にも発生していた。車掌の説明によると電気系統の故障で弁当も作れなければ暖房も効かず、お湯すら出ない。社内灯も消えている。もちろん携帯電話の充電もできない。
 このまま乗客全員で八甲田山かという恐ろしい想像が頭をよぎった。しかも中国の列車事情の都合から停車中は基本的にトイレも許されない。トイレさえ徐行運転の瞬間を狙って行くという最悪の状況が午前中いっぱい続いた。ここまで人間の生理的欲求が制限されてしまうととても厳しい。トンネルをくぐれば車内は真っ暗になり、反対方向の線路の架線が突然火を噴いた瞬間も目撃した。不安この上ない状況だ。

 さらに窓の外から遠くの高速道路上で何キロにもわたって全く動いていないトラックの列の姿も目撃した。状況は思ったよりかなり深刻らしく、列車だけの特別な事情ではないらしい。
異国の地のこの状況下で自分自身も言葉の不安もあるし、所持金だってそんなに多くあるわけではない状態で、この先自分がどうなるのか全く想像できなかった。
ただ、他の中国人乗客達の反応は文句を言いながらも思ったより状況に寛容だった。もちろん中国人の気質もあるのだろうが、車掌と喧嘩してもどうにもならない状況は窓の外を見れば明らかだった。
 結局徐行と停止を繰り返し、株州についたのがお昼の12時半頃。この駅は夜中の零時ころに通過予定だった駅で、この時点で既に13時間遅れ。とっくに上海に着いていた時間だった。この駅でようやく電気系統の故障が修復され暖房などは回復したのだが、食事が出来上がるまで仕込みも含めて3時間ほどかかるという。これには朝ポテトチップスをつまんだだけのお腹が耐えられそうに無かったので堪らず荷物の中のビールと干し牛肉のつまみで空腹を凌いだ。この時点でどう計算しても上海着は夜中になる。もう無事に帰れる事以外の全てを諦めるしかなかった。

上海ワルツ:
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