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「さだまさし」さんの魅力は母の声?

 最近、中国のテレビを見ているうちに、ちょっと思うところがあって「北の国から」のあのテーマ曲が聞きたくなってCDアルバムを聞き返してみた。

 「あーあー・・・」というあの曲である。もちろん歌っているのは男性シンガーソングライターの「さだまさし」さんである。

 ここで当たり前なのにわざわざ「男性」と断ったには訳がある。

 実は今回この曲を聞いているうちに、歌声が女性のもののように思えてきたのである。

 それも若い女性ではなく、年老いかけた女性で声に苦労を重ねた年月が感じられるようなちょっと濁った深みのある声質の、子を持つ母親のイメージの女性である。

 「結(ゆい)のテーマ」の曲でも同様のハミングが聞かれ、これもとても男性とは思えず、まさに母の声である、というか最近まで彼だと気がつかなかった。

 元々「さだまさし」さんは男性としては音域が高い声質のシンガーであるが、その音域は実は女性の平均的な声域の低いところと重なる。

 この声を以って歌詞を言葉にせず「あーあー」とただ声を発して歌うことにより、声の性別の判別がつきにくくなり、あたかも女性歌手が母の愛を歌い上げているように聞こえるという錯覚に陥る。

 歌詞を歌えば、どうしても元々男女で持っている声域が違うため、男か女かは区別がついてしまうので、スキャットで音域をだけを聞かせていることがポイントであろう。

 実はかの曲を名曲足らしめているのはここにミソがあるのではないかと私は感じた。

 曲のタイトルは「遥かなる大地より」となっているが、「大地」はつまり「母なる大地」であり母親の包み込むような愛がそこに存在する曲である。このドラマもそういったドラマである。故にあまり男性的な声質ではマッチングしないのである。

 ならば男性の「さだまさし」ではなく、女性の歌手が歌っても良さそうなものだが、まあそこもドラマとマッチングした妙味である。

 主人公の「純」の母親役は、不倫離婚の末に途中で他界する設定で、このドラマの中心は父親と3人暮らしで成長する姿である。
 つまり父親が母親の気持ちを背負って子供を育てているというドラマになっているため、男性である「さだまさし」が母心を歌うというのは一つ道理がかなっている。

 もっとも、本人によるとあの「あーあー」は狙って作ったものではなく、作家の倉本聰さんに呼び出された時に、突然に作詞作曲をやらされたので、即興の曲を仕方なくスキャットで歌ったところそれがそのまま採用になったという偶然から生まれたものである。
 それがあの大ヒットになるのだから世の中何が幸いするか分からない。

 さらに知識として補足すると、作家の倉本聰さんに作曲作詞を頼まれたとき、本人は九州出身(長崎)の自分には北海道のドラマは合わないでしょうと一度は断りかけたらしい。
 しかし「さだまさし」さん本人は確かに長崎の生まれではあるが、父親や祖父は戦時中に中国大陸を舞台に活躍しており、本人自身もそれを追いかけたドキュメント映画「長江」を作成するなど、家庭環境的にも本人の体験的にも、北海道ではないが大陸の大地の懐の深さを知る人間である。

 北海道と中国の内陸部というのは環境的にも人柄的にも似通う部分はあり、中国のテレビドラマを見てて感じる部分が多々ある。
 そんな生い立ちや環境を知ってか知らずか、倉本さんが強引に彼を指名してあの曲となった。

 こうやって考えると、名ドラマに彼が添えたあの曲は、成り立ちは偶然なのかも知れないが、一ドラマの主題歌という枠を超えて彼自身の声質と祖父の代からの人生のドラマが生んだ必然のヒットのような気がしてならない。

 あの曲を聴くとやっぱり時々胸がじんとする。

上海ワルツ:
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